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建設工事費デフレーター130超でも利益が出ない理由|推移と実務活用

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建設工事費デフレーター130超でも利益が出ない理由|推移と実務活用

建設工事費デフレーターが2023年度に130.0を突破した。2015年度を100とすると、わずか8年で建設コストが3割上昇した計算になる。ところが、国交省「建設業の経営分析」によると建設業の営業利益率は平均2.5%前後で横ばいのままだ。コストが3割上がっているのに、利益率が改善しない。この矛盾の正体を、デフレーターの構造から読み解く。

genba-mediaのダッシュボード(/data/construction-cost)で最新のデフレーター推移を確認できる。

建設工事費デフレーターとは何か

建設工事費デフレーターは、国交省が毎月公表する建設工事のコスト変動を示す指数だ。基準年(2015年度=100)に対して、資材費・労務費・機械経費を加重平均して算出される。

ポイントは「名目の建設投資額」を「実質の建設投資額」に変換するために使う点にある。例えば、2023年度の建設投資額が70兆円でも、デフレーター130で割ると実質は約54兆円。実際の工事量は見かけほど増えていない。

現場で積算をやっている人間なら、この感覚はわかるはずだ。発注金額は上がっているのに、粗利が変わらない。その定量的な裏付けがデフレーターにある。

デフレーターの構成要素

デフレーターは3つの要素から構成される。

  • 資材費: セメント、鉄筋、木材、生コン、アスファルト等の価格変動
  • 労務費: 各職種の設計労務単価の変動
  • 機械経費: 建設機械のリース・燃料費の変動

それぞれの構成比は工事種類によって異なる。土木工事では機械経費の比率が高く、建築工事では労務費の比率が高い。この違いがデフレーターの「加重平均の罠」を生む。自社が手がける工事の構造別にデフレーターを読み分けることが、積算精度の第一歩だ。

建築工事費デフレーターとの違い

「建設工事費デフレーター」と「建築工事費デフレーター」は別の指数だ。

  • 建設工事費デフレーター: 土木+建築の全建設工事が対象
  • 建築工事費デフレーター: 建築工事のみが対象(住宅・非住宅で細分化あり)

住宅を主力とする工務店なら建築工事費デフレーターの方が実態に近い。一方、公共土木を手がける建設会社は建設工事費デフレーター全体を見るべきだ。国交省のサイトで両方確認できる。

デフレーターの推移:2015年からの8年間で何が起きたか

【グラフ: 建設工事費デフレーターの推移(2015-2023年度)】

2015年度を100として、各年度の推移を見る(出典:国交省「建設工事費デフレーター」)。

  • 2015-2019年度: 100→104前後。年1%程度の緩やかな上昇
  • 2020年度: 104.8。コロナ禍で一時的に上昇が鈍化
  • 2021年度: 111.2。ウッドショックで木材価格が急騰し、一気に加速
  • 2022年度: 123.5。ロシア・ウクライナ紛争で鋼材・エネルギー価格が高騰
  • 2023年度: 130.0。円安(1ドル=150円前後)が輸入建材を直撃

8年間で30ポイント上昇。年平均3.3%の上昇率は、同期間の消費者物価指数(年平均1.0%前後)の3倍を超える。建設業のコストインフレは、他産業と比較しても突出している。

2021年のウッドショックが転換点

2021年度のデフレーター急上昇(前年比+6.1%)は、ウッドショックが引き金だった。北米の住宅需要急増と中国の木材買い占めで、日本への輸入木材が減少。スギ正角材は立米4万5,000円から8万円超へ一時的に倍増した。

重要なのは、木材価格が落ち着いた2023年以降もデフレーターが下がらなかった点だ。木材は下落に転じたが、鋼材とセメントの高止まり、そして設計労務単価の14年連続上昇がデフレーターを押し上げ続けている。コスト上昇は一過性ではなく構造的だ。

長期トレンド:1990年代からの30年間

さらに長い期間で見ると、建設工事費デフレーターは1990年代後半から2010年代前半まで下落トレンドだった(デフレ期)。2013年頃に底を打ち、そこから上昇に転じている。

  • 1997年度: 約115(バブル後の高水準)
  • 2013年度: 約90(アベノミクス前の底値)
  • 2023年度: 130

つまり、2013年の底値から見ると44%の上昇だ。2013年に1億円だった工事は、今なら1億4,400万円かかる計算になる。この感覚を持っていないと、過去の実績ベースで見積もりを出した時に必ず赤字になる。

個別資材とデフレーターの乖離:木材・セメント・鋼材で全く違う動き

デフレーターは加重平均値であり、資材ごとの動きは大きく異なる。デフレーター全体だけ見ていると、個別資材の価格変動を見逃す。

木材:ウッドショック後の調整局面

(出典:林野庁「木材価格統計」2024年12月)

  • スギ正角材: 立米6万8,200円(前年比3.2%上昇)
  • ウッドショック前(2020年)の立米4万5,000円前後から51%上昇
  • ただし2022年のピーク(立米8万円超)からは15%以上下落しており、調整局面
  • 国産材と輸入材の価格差が縮小。円安で北米産SPF材が立米7万1,500円まで上昇し、国産スギとほぼ同等になった

国産材シフトが進む余地がある。木造住宅を手がける工務店にとっては、国産材の調達ルート確保が価格安定化の手段になる。

セメント:需要減でも価格は下がらない

(出典:日本セメント協会)

  • 国内販売価格: 2024年はトン1万1,000円前後(2020年比+20%程度)
  • セメント出荷量: 2024年3,299万t(前年比6.7%減、6年連続減)
  • 2025年度見通し: 3,300万tと微増

セメントは需要が6年連続で減少しているのに、価格は上がり続けている。電力コスト(セメント製造は大量の電力を使う)と石炭価格の高騰が原因だ。需要減=価格下落という常識が通用しない。

鋼材:高止まりと回復見通し

(出典:日本鉄鋼連盟、国交省「主要建設資材需要見通し」)

  • 異形棒鋼: トン10万円前後で高止まり
  • 2024年度の建設用鋼材需要: 1,566万t(前年比6.9%減)
  • 2025年度見通し: 1,670万t(6.7%増)

鋼材はRC造・S造の躯体に直結するため、非住宅建築(データセンター・物流施設)の需要が強い。2025年度は回復見通しだが、中国の鉄鋼過剰生産が国際価格を不安定にしている。

生コンクリート:過去最低の出荷量

(出典:経産省「生コンクリート流通統計調査」)

  • 2024年全国出荷量: 6,668万m³(前年比6.8%減、1976年以降最低)
  • 価格: 立米1万6,000-1万8,000円(地域差大)

RC造の減少と住宅着工件数の低迷が直撃している。生コン工場の統廃合が進んでおり、地方では「最寄りのプラントまで30km」という状況も出始めている。運搬距離の増加は、ミキサー車の90分制約(練り混ぜから打設まで)を考えると、工程計画に直接影響する。

設計労務単価の14年連続上昇

2026年3月適用の公共工事設計労務単価は、全職種加重平均で25,834円(前年比4.5%増)。14年連続の引き上げだ(出典:国交省)。

職種別の単価差

設計労務単価は職種によって2倍以上の差がある。

  • 特殊作業員: 約30,000円
  • 型枠工: 約28,000円
  • 鉄筋工: 約27,500円
  • 普通作業員: 約22,000円
  • 軽作業員: 約15,000円

型枠工と軽作業員で倍近い差がある。熟練工の確保が困難な職種ほど単価上昇率が高く、この傾向は今後も続く。

地域別の格差

設計労務単価は地域差も大きい。

  • 東京: 普通作業員で約26,000円
  • 北海道: 普通作業員で約20,000円(東京の77%)
  • 長崎: 普通作業員で約21,000円

同じ仕様書でも、施工場所で原価が大きく変わる。福岡市のRC造現場では型枠工の実勢日当が3万2,000円を超えるが、設計労務単価は2万8,000円程度。現場は設計単価を上回るコストを負担している。この「設計単価と実勢単価の乖離」が、公共工事の入札不調(2024年度の不調率6.9%)の一因でもある。

建築費指数との関係:構造別で全く違うトレンド

建設物価調査会が公表する建築費指数(Vol 1,000)は、デフレーターの「加重平均の罠」を補完する重要な指数だ。

構造別の上昇率(2024年12月時点):

  • RC造(事務所): 前年比+4.2%
  • S造(工場・倉庫): 前年比+3.8%
  • 木造(住宅): 前年比+1.5%

木造住宅の上昇率が低いのは、ウッドショック後の木材価格調整が効いているため。一方、RC造・S造は鋼材とセメントの高止まりが直撃している。

デフレーター全体では130でも、構造によって体感コストは115〜140まで開きがある。自社が手がける工事の構造別に、適用すべき指数を使い分けることが積算精度の向上につながる。

積算・見積もりでの実務活用法

デフレーターと個別資材価格を組み合わせた実務活用法を整理する。

見積もり更新のタイミング

  • デフレーターが前月比で1ポイント以上変動した月は、進行中の見積もりを再チェックせよ
  • 国交省の発表は毎月。genba-mediaのダッシュボード(/data/construction-cost)で速報値を確認できる
  • 着工から竣工まで1年以上かかる工事では、見積もり時点と施工時点のデフレーター差を考慮に入れること

スライド条項の活用

公共工事では、資材価格の急変に対応する「スライド条項」(単品スライド・インフレスライド)が適用可能だ。

  • 単品スライド: 主要な1品目の価格が1%以上変動した場合に適用
  • インフレスライド: 残工事費の1%を超える価格変動が生じた場合に適用
  • 2022年以降、国交省は適用を積極的に促している

申請のタイミングは「主要資材の価格が1%以上変動した時点」。デフレーターの月次変動がシグナルになる。スライド条項を使わず赤字を被っている現場が多いが、申請すれば通るケースが大半だ。使わない理由がない。

民間工事での交渉材料

民間工事にはスライド条項がない場合が多い。だが、交渉の根拠としてデフレーターは有効だ。

  • 元請との価格交渉で「デフレーター130=コスト3割増」を根拠に使える
  • 設計労務単価の公表値を提示し、「公共工事単価ですらこの水準」と示すのが効果的
  • 見積もり書に「本見積もりは○年○月時点のデフレーター値に基づく。着工時に再確定」と明記することで、価格変動リスクを契約段階で共有する

資材別のヘッジ戦略

デフレーターの内訳を見れば、どの資材のリスクが高いかがわかる。

  • 木材: 下落基調だが底打ち→反転の可能性。在庫を持つリスクは低下
  • 鋼材: 高止まり。長期契約で価格を固定する交渉が有効
  • セメント・生コン: 需要減でも価格は上昇。代替策がなく受け入れるしかない
  • 燃料(軽油): 円安と原油価格に連動。機械経費の変動要因

2026年度の見通し:コスト上昇は続くのか

デフレーターの上昇トレンドが反転する材料は現時点で見当たらない。

  • 円安は構造的(日米金利差)。輸入建材の価格圧力は継続
  • 設計労務単価は14年連続上昇中。有効求人倍率5倍超が解消する見込みはない
  • 国土強靭化中期計画(2026-2030年度、5年で20兆円強)がスタート。公共工事の発注増加が資材需要を押し上げる
  • 住宅着工件数は減少トレンド(2024年81.2万戸、前年比4.6%減)。需要減がコストを抑える方向に働くが、非住宅(データセンター・物流施設)の需要が補っている

総合すると、2026年度のデフレーターは132-135程度に上昇する見通し。年2-3%のコスト上昇を前提とした経営計画が必要だ。

まとめ:デフレーターを経営判断に翻訳する

  • デフレーター130は「コスト3割増」を意味する。利益率2.5%の建設業にとって、見積もり精度の1%のズレが致命傷になる
  • 全体指数だけでなく、構造別(RC/S/木造)と資材別(木材/セメント/鋼材/生コン)のトレンドを押さえよ
  • 設計労務単価の地域差(東京は北海道の1.3倍)を見積もりに反映しているか確認せよ
  • 見積もりの更新頻度を月次に。genba-mediaのダッシュボード(/data/construction-cost)で最新データを確認できる
  • スライド条項は使えるのに使っていない現場が多い。申請条件を事前に確認し、タイミングを逃すな
  • 見積もり書に「価格変動条項」を明記し、着工時に価格を再確定するルールを標準化せよ
  • 2026年度はデフレーター132-135を前提に経営計画を立てよ
実際の取引価格とは異なる場合があります。参考値としてご利用ください。
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