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国土強靭化で建設業に流れる20兆円|中小が取れる受注枠はどこか

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国土強靭化で建設業に流れる20兆円|中小が取れる受注枠はどこか

⚠️ 本記事の施工情報は一般的な解説です。実際の施工は現場条件に応じた安全管理のもと行ってください。

「国土強靭化」という言葉を耳にする機会が増えました。テレビや新聞では「防災・減災のための予算」として語られますが、建設会社の経営者にとっての関心は別のところにあるはずです。この予算はどの分野に、どれくらいの規模で流れるのか。そして、自社が受注できる枠はあるのか。

この記事では、国土強靭化政策の全体像を整理したうえで、5年20兆円規模とされる中期計画の予算配分と、中小建設会社が狙える受注領域を分析します。

データで見るインフラ老朽化のダッシュボードでは、施設別の老朽化推移をインタラクティブに確認できます。あわせてご覧ください。

国土強靭化とは何か — 制度の骨格を30秒で理解する

国土強靭化とは、大規模自然災害に備えて国土・経済・暮らしを強くする国家的な取り組みです。2013年に「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靭化基本法」が成立し、翌2014年に基本計画が閣議決定されました。

ポイントは、単なる「公共事業の増額」ではないという点です。国土強靭化は、道路・河川・港湾・上下水道など既存インフラの老朽化対策と、気候変動による災害激甚化への備えを一体的に進める枠組みです。つまり、新設ではなく「維持・更新・補強」に重心を置いた投資計画といえます。

背景にあるのは深刻なインフラ老朽化です。国土交通省のインフラ長寿命化計画(第2次、2024年改訂)によると、2040年には道路橋の75%が建設後50年を超えます。帝国データバンク(2025年)の分析でも、2030年時点で道路橋の54%が50年超に達すると指摘されています。

予算の全体像 — 15兆円から20兆円へ

国土強靭化の予算は、大きく2つのフェーズに分かれます。

第1フェーズ:5か年加速化対策(2021〜2025年度)

2020年12月に閣議決定された「防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策」の事業規模は約15兆円です。年平均3兆円の追加投資が5年間にわたって計上されました。

対象は123の対策項目に及びますが、大別すると3分野に集約されます。

  • 激甚化する風水害・切迫する大規模地震への対策(約12.3兆円):流域治水、道路ネットワーク強化、住宅・建築物の耐震化など
  • 予防保全型インフラメンテナンスへの転換(約2.0兆円):道路橋・トンネル・河川管理施設の老朽化対策
  • 国土強靭化に関する施策のデジタル化(約0.7兆円):防災情報のデジタル化、インフラ管理のDX

予算の8割以上が風水害・地震対策に集中している点は注目に値します。「老朽化対策」として語られることが多い国土強靭化ですが、実際の予算配分では災害対策の比重が圧倒的に大きいのが実態です。

第2フェーズ:中期計画(2026年度〜)

5か年加速化対策の後継として、「防災・減災、国土強靭化のための中期計画」が策定されました。報道によると、事業規模は5年間で約20兆円。前フェーズから約5兆円の上積みとなります。

この上積み分の主な要因は3つです。

  1. 資材価格・労務費の高騰。建設資材物価は2021年1月比で土木39%・建築36%上昇しており(日本建設業連合会、2025年)、同じ工事をするにも以前より費用がかかります
  2. 気候変動の加速。線状降水帯や集中豪雨の頻度が増し、流域治水の対象範囲が拡大しています
  3. 老朽化の進行。5か年加速化対策の期間中にも施設の経年劣化は進んでおり、対策が必要な施設数は増え続けています

予算はどこに流れるか — 分野別の配分構造

国土強靭化予算は複数の省庁にまたがりますが、国土交通省が全体の約6割を占めます。残りは農林水産省、総務省(消防関連)、経済産業省(エネルギーインフラ)などに配分されます。

5か年加速化対策の実績をもとに、主な分野別の配分傾向を整理します。

分野

主な対策内容

配分傾向

河川・ダム

流域治水、堤防強化、遊水地整備、ダム事前放流

最大の配分先。気候変動対応で増額傾向

道路

橋梁・トンネルの修繕・架替、法面対策、無電柱化

老朽化対策の中核。予防保全シフトが加速

港湾・海岸

防波堤の粘り強い化、臨港道路整備

南海トラフ対策で重点化

上下水道

管路の耐震化・更新、浸水対策

管路老朽化が深刻。更新需要は長期継続

砂防

土砂災害警戒区域の対策、急傾斜地崩壊防止

中山間部の自治体で需要が高い

住宅・建築物

耐震化、ブロック塀対策

民間補助が中心。直接の公共工事は限定的

中小建設会社にとって現実的な受注機会が多いのは、河川(護岸・堤防)、道路(橋梁補修・舗装)、上下水道(管路更新)、砂防(擁壁・法面)の4分野です。これらは工事1件あたりの規模が数千万円〜数億円で、地元企業が元請として受注できる価格帯に収まります。

中小建設会社への影響 — 地方発注の拡大と新たな受注形態

国土強靭化予算の特徴は、地方への波及効果が大きいことです。河川・砂防・上下水道の工事は都道府県や市町村が発注者となるケースが多く、地場の建設会社に受注機会が生まれます。

包括管理契約という新しい選択肢

注目すべき動きのひとつが、包括管理契約の拡大です。従来、インフラの維持管理は個別施設ごとに発注されていました。しかし、自治体の技術職員不足と予算制約から、複数の施設をまとめて管理する包括管理契約が増えています。

包括管理契約のメリットは、年間を通じた安定受注が見込める点です。単発の工事入札とは異なり、3〜5年の複数年契約が一般的で、日常の巡回点検から応急対応、軽微な修繕までを一括で受託します。

ただし、注意点もあります。包括管理には点検・診断の技術力が求められるため、施工だけを行ってきた会社がすぐに参入できるわけではありません。コンクリート診断士や道路橋点検士といった資格保有者の確保が前提条件になります。

補正予算のタイミングを読む

国土強靭化予算の相当部分は当初予算ではなく補正予算で計上されます。例年12月前後に閣議決定される補正予算で追加配分が行われ、翌年1〜3月に発注が集中する傾向があります。

この「補正予算の波」を読めるかどうかが、中小建設会社の受注量を左右します。技術者の配置計画や資機材の確保を、補正予算の発注時期に合わせて準備しておく必要があります。逆に言えば、この波を逃すと年度内に消化しきれない案件が翌年度に繰り越され、競争環境が変わることもあります。

自治体の技術職員不足 — 民間への依存が加速する構造

国土強靭化予算が増えても、それを執行する自治体側の体制が追いついていません。国土交通省の資料(2025年)によると、技術職員が5人以下の市区町村は全体の約50%を占めます。さらに深刻なのは、技術職員がゼロの団体が全体の約25%に達している点です。

技術職員がいない自治体では、工事の設計・積算・監督ができません。結果として、以下の3つの形で民間企業への依存が進んでいます。

  1. CM(コンストラクション・マネジメント)方式の導入。発注者に代わって民間のCM会社が設計・施工の管理を行います。中小建設会社がCM業務に参入するハードルは高いですが、CM会社の下で施工を担うポジションは十分に狙えます
  2. 設計施工一括発注(デザインビルド)の増加。設計と施工を分離して発注する余力がない自治体が、一括発注に移行するケースが増えています。設計能力を持つ建設会社や、設計事務所とのJV(共同企業体)が有利になります
  3. 複数自治体の共同発注。隣接する小規模自治体が共同で維持管理業務を発注する動きが出ています。個別自治体では発注ロットが小さすぎて不経済な工事も、共同発注により適正規模にまとまります

国交省の白書(2025年)では、国民の4割が「インフラ維持のための値上げやむなし」と回答しています。社会的な理解は広がりつつあり、予算の拡充基調は当面続く見通しです。しかし、予算がついても執行体制が整わなければ工事は発注されません。自治体の技術職員不足は、国土強靭化の最大のボトルネックであると同時に、民間企業にとっての事業機会でもあります。

まとめ — 経営判断のための3つのポイント

国土強靭化予算は、5か年加速化対策の15兆円から中期計画の20兆円へと拡大しています。この予算の流れを経営判断に落とし込むと、以下の3点に集約されます。

1. 自社が狙うべき分野を絞る。河川・道路・上下水道・砂防のどの分野に強みがあるか。予算配分の大きい河川・道路は競争も激しいですが、上下水道の管路更新や砂防の法面対策は地場企業の独壇場になりやすい分野です。

2. 維持管理の実績を早期に積む。包括管理契約やデザインビルド方式など、新しい発注形態が増えています。これらの入札では過去の維持管理実績が評価されるため、小規模案件でも実績を積んでおくことが将来の受注につながります。資格保有者の育成も含め、3〜5年先を見据えた準備が必要です。

3. 補正予算のサイクルを経営計画に織り込む。国土強靭化予算は補正予算での上積みが常態化しています。年度後半に発注が集中する傾向を前提に、技術者の稼働計画を組むことで、受注機会を最大化できます。

国土強靭化は一過性の景気対策ではありません。インフラの老朽化と気候変動の激甚化が続く限り、予算規模は維持・拡大される構造にあります。問題は「予算があるかどうか」ではなく、「自社がその予算を取りにいける体制を持っているか」です。


インフラ老朽化の全体像については、データで見るインフラ老朽化のダッシュボードで施設別の推移を確認できます。また、ピラー記事「インフラ老朽化が建設業にもたらす「静かな特需」と3つの経営リスク」では、予防保全と事後保全のコスト差や自治体の修繕進捗のばらつきなど、より詳しいデータ分析を掲載しています。

本記事は2025〜2026年時点の公開情報に基づいて作成しています。法令や政策は改正される場合があります。実務判断は専門家にご相談ください。

現場状況により異なります。安全管理は必ず関係法令に従ってください。
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