
この記事でわかること
公共工事の入札不調率は2020年度の8.1%から2024年度は6.9%まで、5年で約1.2ポイント下がっています。ただし発注者区分で見ると都道府県6.1%に対して特殊法人17.1%・指定都市9.0%と最大3倍近い開きが残ります。設計労務単価は2026年3月適用で14年連続の上昇となり、建設業の倒産は2024年に過去10年で最多の1,890件、2025年は2,021件とさらに増えました。
主要データ
- 公共工事全体の入札不調率:2020年度8.1%→2024年度6.9%(国土交通省・総務省・財務省「入札契約適正化法等に基づく実施状況調査結果」2025年12月19日公表、対象1,927団体)
- 2024年度の発注者別不調率:国7.4%/都道府県6.1%/市区町村6.8%/指定都市9.0%/特殊法人等17.1%(同調査)
- 公共工事設計労務単価(2026年3月適用):全国全職種加重平均値25,834円、全国全職種単純平均で前年度比+4.5%、14年連続上昇(国土交通省、2026年2月17日公表)
- 建設業の倒産件数(2024年):1,890件、過去10年で最多(帝国データバンク「建設業倒産動向調査2024年」2025年1月21日公表)。2025年は2,021件でさらに増加(同「建設業の倒産動向(2025年)」2026年1月13日公表)
- 2024年倒産の特殊要因別判明件数(TDB):物価高倒産250件、ゼロゼロ融資後倒産143件、人手不足倒産99件。従業員10人未満が1,742件で全体の92.2%
公共工事の入札不調率は2024年度6.9%に低下、ただし発注者別に最大3倍近い格差
「入札不調が過去最高水準にある」という見方を時折耳にします。国土交通省・総務省・財務省が2025年12月19日に公表した「入札契約適正化法等に基づく実施状況調査」では、公共工事全体の不調・不落発生率は2020年度8.1%から2024年度は6.9%まで下がりました。2020年度比で約1.2ポイントの低下で、水準としてはむしろ改善局面です。
ただし、全国平均の裏では発注者区分で格差が広がっています。都道府県6.1%に対して特殊法人等17.1%、指定都市9.0%。同じ「公共工事」と括っても、発注者によって不調の起きやすさは2〜3倍違います。本記事では、この実態と、背後にある労務単価・倒産動向・制度改正の動きを、建設会社の経営判断に翻訳できる形で整理します。
公共工事の入札不調率は2024年度6.9%、5年で約1.2ポイント低下
全国平均の推移:5年で7%台後半から6%台後半へ
国土交通省・総務省・財務省は、入札契約適正化法(公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律)に基づき、毎年1回、公共工事の発注者に対する実施状況調査を実施しています。2025年12月19日に公表された令和7年度調査では、国19機関、特殊法人等120法人、地方公共団体1,788団体(47都道府県、20指定都市、1,721市区町村)の計1,927団体が対象となりました。
同調査の「不調・不落発生率」は、一般競争入札・指名競争入札による全競争入札の契約件数に対して、不調・不落が発生した件数の割合として算定されます。応札者ゼロで入札が成立しなかった場合と、応札はあったが予定価格を上回って落札者が決まらなかった場合の両方を含みます。
公共工事全体での発生率は、2020年度8.1%、2021年度7.3%、2022年度7.4%、2023年度7.2%、2024年度6.9%でした。トレンドは低下ですが、2022年度は前年比で0.1ポイントの微増で、単調減少ではありません。ただし2020〜2024年度の5年度分で見ると、8.1%から6.9%へ約1.2ポイント下がっています。
発注者別の二極化:都道府県6.1%、特殊法人等17.1%
全国平均の低下だけで判断するのは早計です。発注者区分別に見ると、同じ2024年度でも発生率には大きな開きがあります。
- 国(省庁・地方整備局等):7.4%(2020年度10.6%から連続低下)
- 都道府県:6.1%(2020年度7.9%から連続低下)
- 市区町村:6.8%(2020年度7.5%から、間に微増局面を挟みつつ低下)
- 指定都市:9.0%(2020年度10.0%から低下)
- 特殊法人等:17.1%(2020年度比では低下だが、近年は高止まり・振れが大きい)
都道府県6.1%に対して特殊法人等は約2.8倍、指定都市は約1.5倍です。特に特殊法人等はR3 13.2%→R4 15.6%→R5 18.5%→R6 17.1%と直近5年で大きく振れており、「改善トレンド」と言い切れない局面にあります。建設会社の受注先ポートフォリオによって、不調リスクの見え方は倍ほど変わる点に注意してください。
関連データはデータで見る建設コスト・データで見る建設業の人材も併せてご確認ください。
不調が起きる発注者に共通する三つの要因
一般社団法人全国建設業協会が会員企業を対象に毎年実施している「発注関係事務の運用状況等に関するアンケート」では、不調・不落が起きやすい発注案件に共通するパターンが繰り返し指摘されています。令和6年度調査(全国建設業協会、2024年9月公表)では、主な要因として次の三点が挙げられています。
要因1:予定価格と実勢価格の乖離
会員企業の回答では「仮設や施工条件が十分に積算されていないケースが多く、物価資料に載っている単価と実勢価格に大きな乖離がある」との指摘が多数を占めました。設計労務単価は毎年上昇していますが、職種・地域によっては実勢のほうが先行して上がっており、予定価格が追いつかない状況です。
国土交通省は見積もりを活用した積算方式の拡大を各発注者に要請しており、2024年7月には都道府県・政令市の計67団体に対して入札等級の緩和や発注ロットの拡大と併せて見積活用方式の運用改善を求めました(国土交通省「不調・不落対策に関する地方公共団体への要請」、2024年7月)。
要因2:発注時期の繁忙期偏りと技術者不足の重なり
公共工事は年度末に向けて発注が集中しがちです。全国建設業協会の調査では「発注時期が繁忙期であり、受注企業の技術者不足と重なり入札参加者がないケース」「配置技術者が長期間拘束される工期の長い工事で不調が発生している」との指摘が繰り返し上がっています。
2024年4月からは建設業にも時間外労働の上限規制が適用され、技術者1人あたりの稼働可能時間が実質的に縮小しました。施工時期の平準化を進めてきた発注者でも、繁忙期が完全に解消されたわけではありません。
要因3:設計図書と現場の不整合
「設計段階における工事支障物の調査不足、地元関係者への説明不足、関係機関との調整未了等の事案があり、工事着手の遅延が工期に影響を与えている」との回答も同調査で目立ちます。設計図書と現地の不整合、支障物件対応の不備は、応札者側のリスク判断に直結し、不調要因になります。
設計労務単価は14年連続上昇、2026年3月適用は25,834円
最新値:全国全職種加重平均値25,834円、単純平均で前年度比+4.5%
国土交通省が毎年改定する公共工事設計労務単価は、2026年3月適用で全国全職種加重平均値25,834円となりました。国交省の公式整理では、全国全職種単純平均で前年度比+4.5%、14年連続の上昇です(国土交通省、2026年2月17日報道発表)。加重平均値で前年2025年3月の24,852円と比べると約+4.0%になります(ウェイト違いのため数値は変わります)。2012年の基準年と比較すると、加重平均値の累計はほぼ2倍の水準です。
前年の2025年3月改定時には、全国全職種単純平均で前年比+6.0%と過去11年で最大の伸び率を記録し(国土交通省、2025年2月14日報道発表)、51職種について都道府県ごとの単価が定められています。軽作業員と左官が6.8%、大工6.3%、鉄筋工5.9%などが同改定では上位でした。
現場が訴える実勢乖離は続く
公的な設計労務単価は上がり続けていますが、現場では「実勢はさらに高い」との声が続いています。専門工種、特にとび・電気設備・機械設備などでは、首都圏・地方を問わず実勢日当が設計労務単価を上回るケースが珍しくありません。
2025年10月末時点で札幌市財政局発注工事の入札不調は63件に達し、うち6割が応札者ゼロだったと北海道建設新聞(e-kensin)が伝えました。「電気と設備で単価が合わず、人が確保できない」との現場の声が紹介されています。
設計労務単価の年1回改定から年2回改定への移行は2024年以降の国交省内で論点として挙がっていますが、2026年4月時点で制度変更には至っていません。
倒産は過去10年最多、特殊要因別の判明件数で見る物価高・ゼロゼロ融資後・人手不足
2024年 1,890件、2025年 2,021件とさらに増加
帝国データバンクが2025年1月21日に公表した「建設業」倒産動向調査(2024年)では、建設業の倒産件数は1,890件で、過去10年で最多となりました。同社の翌年報告「建設業の倒産動向(2025年)」(2026年1月13日公表)では2025年は2,021件とさらに増加し、4年連続で前年を上回っています。
業種別では、職別工事(大工工事、とび工事など)879件、総合工事(土木工事など)600件、設備工事(電気工事など)411件の順です。従業員規模別では10人未満が1,742件で全体の92.2%を占め、100人以上の大手倒産は2年連続で発生していません。東京商工リサーチが2025年1月9日に公表した集計(1,924件、前年比+13.6%)でも、過去10年最多という方向感は同じです。
特殊要因別の判明件数:物価高250件・ゼロゼロ融資後143件・人手不足99件
帝国データバンクは倒産統計の通常分類とは別に、特殊要因が判明した件数を補助指標として公表しています。2024年の建設業分では、物価高倒産250件(構成比13.2%)、ゼロゼロ融資後倒産143件、人手不足倒産99件でした。2025年はこのうち物価高倒産240件、人手不足倒産113件と、物価高は横ばい、人手不足は1割強の増加傾向です。これらは排他的な原因分類ではなく、資材高・返済負担・人手不足が重なっている実態を示すサブセットとして読むのが適切です。
倒産件数の絶対数は増えていますが、件数の多くは資金繰り・採算悪化由来で、「人手不足で廃業」という単線ストーリーには収まりません。入札不調を避けようとして不慣れな民間案件や遠方案件に手を広げる選択が、採算悪化や工期遅延を通じて倒産リスクを高める経路もあるため、受注判断の時点で採算・稼働・技術者配置の三点セットで線を引くことが現実的です。
発注者側の対策と改正建設業法・入契法の論点
国交省の自治体要請(2024年7月)
国土交通省は2024年7月、都道府県・政令市の計67団体に対して不調不落対策の要請を行いました。主な内容は以下の三点です。
- 入札等級の緩和や発注ロットの拡大、見積もりを活用した積算の実施
- 地域の実情を踏まえた適切な入札参加条件・規模による発注
- 建築・機械工事を含む自治体内部の部局横断的な対策連携
これらの対策は国の直轄工事では既に実施されてきたもので、自治体への水平展開が段階的に進んでいます。2024年度の都道府県不調率6.1%は、こうした取り組みの蓄積が反映された数値と読めます。
改正建設業法・入契法の賃金・労務費しわ寄せ防止
2024年6月に公布された改正建設業法及び改正入札契約適正化法では、以下の措置が盛り込まれました。
- 労務費の基準の作成・勧告(中央建設業審議会)
- 下請への著しく低い労務費による見積・契約の禁止
- 資材高騰時の下請・元請間の協議を促すリスクコミュニケーションの強化
- 労働時間の適正化・現場管理効率化の措置
改正は段階的に施行されており、一部規定は2025年12月までに施行されています。労務費のしわ寄せ防止は、元請の予定価格と下請実勢の乖離を縮める狙いがあり、中長期的には不調率の構造改善要因になり得ます(国土交通省「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律案」報道発表資料、2024年)。
経営判断への翻訳:4つの論点
ここまでのデータを建設会社の経営判断に落とすと、論点は次の4つに絞られます。
論点1:受注ポートフォリオで不調リスクを管理する
発注者別の不調率格差を踏まえると、受注先の構成を「都道府県中心」「市区町村中心」「指定都市・特殊法人中心」のどこに置くかで、不調に振り回される度合いは倍ほど変わります。特に指定都市9.0%・特殊法人等17.1%の案件に比重がある会社は、参加条件・発注ロット・工期の実情を発注者ごとに把握し、自社の技術者配置と照らして案件選別を厳しくすることが現実解です。
論点2:見積もり活用方式・価格変動条項の使い倒し
予定価格と実勢の乖離は、見積もり活用方式や物価スライド条項(インフレスライド・単品スライド)の運用で一定程度埋められます。応札段階で見積根拠と実勢単価のデータを整備し、見積活用対象工事への応札準備を整えておくと、不調が起きやすい地域・工種での応札機会を広げやすくなります。
論点3:発注時期平準化への先回り
施工時期平準化(ゼロ債務負担・国庫債務負担行為・複数年契約)の拡大は、自治体単位で進展しています。平準化対象案件は技術者の稼働分散に使いやすく、2024年問題下の稼働上限にも適合しやすい形です。平準化対象案件の公告情報を早期に把握し、繁忙期の単発案件と組み合わせて技術者配置を組むと、不調が多い案件を回避しつつ稼働率を確保できます。
論点4:倒産件数の増加局面では利益管理を緩めない
2024年倒産1,890件・2025年2,021件という局面では、受注量よりも採算・資金繰り管理の重みが増します。不調回避を目的に利益の取れない案件に手を広げる判断は、物価高・ゼロゼロ融資後・人手不足という直近の倒産原因と親和性が高い方向です。「取れる工事」ではなく「利益の出る工事」に絞る判断は、2025年までの倒産データが示す生存ラインと整合します。
まとめ:不調率は低下したが、発注者選別と利益管理の重みは増している
入札不調率は「過去最高水準」ではなく、過去5年で緩やかに低下してきました。ただしそれは全国平均の話であり、特殊法人等・指定都市では依然として高止まりが続いています。「全体としては改善」と「自社が関わる発注者では悪化」は同時に成立します。
一方で、設計労務単価は2026年3月適用で14年連続の上昇となり、改正入契法・建設業法による労務費しわ寄せ防止も進んでいます。制度面は構造改善の方向に動いていますが、現場の実勢とのギャップはまだ残り、倒産件数は2025年に2,021件と過去10年で最多を更新しました。
経営者として問うべきは、「不調率の高低」そのものではなく、自社が関わる発注者・工種・地域ごとに、不調リスクと利益率を併せてどう設計するか、です。発注者別のデータを踏まえた選別と、見積もり活用・平準化・スライド条項の組み合わせが、不調リスク下で利益を守る現実的な軸になります。
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