
この記事でわかること
建設業の M&A は、レコフデータが運営する MARR Online の月次集計や、日本 M&A センターの業界別動向で言及される業界の一つです。日本企業全体の M&A は 2024 年に 4,700 件で前年比+17.1%(MARR Online)と拡大傾向にあり、業界別の中でも建設業は事業承継型 M&A の対象として議論される機会が増えています。背景には後継者不在率の高さ(建設業 57.3%、TDB 2025 年調査)と、2020 年改正建設業法での承継認可制度の整備があります。本記事では公表データの読み方と、中小事業者が M&A を検討する際の論点を整理します。本記事の「M&A 件数」は、データソース(レコフ集計、日本 M&A センター開示分、業界紙集計など)で集計範囲が異なる点に注意してください。
主要データ
- 建設業の後継者不在率:57.3%(2025年)、業種別最高水準(帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」2025年11月21日公表)
- 休廃業・解散:2025年に建設業10,283件で初の1万件超・全産業最多(東京商工リサーチ「2025年休廃業・解散企業動向調査」2026年1月公表)。倒産2,021件と合わせ年間約1.2万社が市場から退出
- 改正建設業法(2020年改正)で承継認可制度が導入され、合併・事業譲渡時の建設業許可の承継が制度上整備
- 日本企業全体の M&A 動向:2024 年は4,700件で17.1%増、金額は19.6兆円で8.0%増(レコフデータ2024年回顧、MARR Online)
注記:M&A 件数の集計はデータソース・集計範囲(公表案件のみか含まれるか、上場・非上場、案件規模の閾値など)により異なります。本記事の数値は公表ベースの参考値で、業界全体の正確な件数を示すものではありません。
日本企業全体の M&A は 2024 年に 4,700 件で前年比 +17.1%(レコフデータ MARR Online)と拡大局面にあり、業界別の議論の中で建設業は事業承継型 M&A が議論される業種の一つとして言及されることが増えています。背景には、後継者不在率の高さ(建設業 57.3%、TDB 2025 年)と、休廃業・解散の急増(2025 年 10,283 件、TSR)があります。事業を継続する選択肢としての M&A が、中小建設会社の経営者にとって検討対象に入りやすくなっているのが現在の局面です。
本記事の「M&A 件数」は集計範囲がデータソースで異なる点に注意が必要です。レコフデータの MARR Online は公表されている案件を中心に集計し、日本 M&A センターは自社が関与した案件と業界別動向を公表しています。業界全体の正確な件数は把握しづらく、各データの参照範囲を踏まえた読み方が前提です。
関連ダッシュボードは事業承継・M&A データで随時更新しています。
日本企業全体の M&A 動向
レコフデータが運営する MARR Online の集計では、日本企業の M&A 件数は近年増加傾向です。
- 2024年(暦年):4,700件で前年比17.1%増、金額は19.6兆円で8.0%増(MARR Online「2024年のM&A回顧」)
- 2025年1〜9月:3,694件で前年同期比6.3%増、2年連続で最多更新(MARR Online)
業種別の M&A 動向は、MARR Online の月次レポートや日本 M&A センターの「業界別の M&A 動向」で公表されています。建設業は事業承継の文脈で取り上げられる業種の一つで、業種別件数・構成比の正確な数値は各データソースの公表資料でご確認ください(記事の主張を強めるための業種別件数の引用は本記事では行いません)。
建設業で M&A が増えている背景
後継者不在率57.3%という構造
帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」(2025年11月21日公表)では、建設業の後継者不在率は 57.3% で業種別最高水準です。中小・零細事業者の構成比が高く、経営者高齢化が進む中で「親族・社内に承継者がいない」企業が、M&A による第三者承継を選ぶ動きが広がっています。
同調査では建設業の不在率は 2018 年の 71.4% から 14.1 ポイント改善しており、改善要因の一つとして M&A・親族外承継の活用が挙げられています。詳細は後継者不在率の関連記事を参照してください。
承継認可制度の整備
2020 年の改正建設業法で、合併・分割・事業譲渡時の建設業許可の承継認可制度が導入されました。従来は建設業許可の引継ぎが煩雑で M&A スキームの選択を制約する要因の一つでしたが、承継認可制度により合併・分割・事業譲渡で許可を引き継げる枠組みが整備されました。建設業 M&A の制度面のハードルが下がったことが、事業承継型 M&A の議論が広がる一因と見られています(制度導入と M&A 件数の因果関係を直接示す統計はないため、断定的な評価は避ける必要があります)。
2024年問題と人手不足倒産
建設業の時間外労働上限規制(2024年4月適用)と、TDB の建設業人手不足倒産 113 件(2025 年、業種別初の 100 件超)の動きが報じられている中で、単独経営の継続コストが上がっている指摘が業界誌等で見られます。倒産・廃業を選ぶ前に M&A で事業継続の道を探るケースが取り上げられる場面も増えていますが、業界全体の M&A 件数増加を直接示す統一的な統計はないため、定量的な評価は各データソースの公表値でご確認ください。
M&A スキームの選択肢
建設業で活用される M&A スキームを整理します。スキームによって建設業許可の取扱い・税務・従業員処遇・取引関係の引継ぎが大きく変わります。
スキーム | 許可取扱い | 主な特徴 |
|---|---|---|
株式譲渡 | 原則維持(人的要件確認) | 法人格存続、契約関係・取引関係を一体引継ぎ |
事業譲渡 | 譲受側で新規取得 or 認可承継 | 必要な事業のみ選択的に承継可能 |
合併 | 承継認可手続 | 2 社以上を 1 社にまとめる、組織再編 |
会社分割 | 承継認可手続 | 事業の一部を分離して別会社化または承継 |
個別案件のスキーム選択は、税務・建設業許可要件・既存契約の引継ぎ・債務承継の観点で検討する必要があります。M&A 仲介会社・公認会計士・税理士・行政書士の支援を受けて進めるのが実務です。
M&A 価格の評価論点
建設業 M&A の売却価格は、複数の要素で評価されます。「年商の何倍」という単純倍率だけでは評価できません。
- EBITDA・純資産:基本的な企業価値評価の起点
- 受注残・未完工事:将来収益の見通し
- 有資格技術者の人数・年齢構成:建設業許可の継続性、技術力
- 建設業許可の種類・数、経審点数:受注機会への影響
- 債務状況・偶発債務:承継後のリスク
- 取引先構成・地域顧客基盤:継続案件の獲得可能性
建設業は固定資産が比較的少なく、技術者・許可・取引関係といった「目に見えにくい価値」が事業価値の中心です。技術者が在職している間に M&A 検討を始めるのが、譲渡可能性の幅を確保する上で実務的な論点です。技術者の退職や許可要件の喪失が進んだ後では、譲渡交渉が成立しにくくなる場合があります。
中小事業者が M&A を検討する際の論点
1. 早期検討開始
後継者不在に直面してから M&A 検討を始めると、技術者の退職・許可要件の喪失・経営悪化で交渉力が落ちるパターンが多く報告されています。経営者が 60 歳を超えた段階で、承継の選択肢として M&A を含めた検討を始めるのが実務的です。事業承継・引継ぎ支援センター(独立行政法人中小企業基盤整備機構)等の公的支援機関への初期相談から始める選択肢があります。
2. M&A 仲介会社の選定
建設業 M&A を扱う仲介会社は複数あります。日本 M&A センター、ストライク、M&A キャピタルパートナーズなどが業界別動向を公表しており、建設業の取扱実績がある仲介会社を比較検討する選択肢があります。仲介手数料の体系(着手金・中間金・成功報酬)と相談し、複数社からセカンドオピニオンを取るのが慎重なアプローチです。
3. 売却前のデューデリジェンス準備
譲受側のデューデリジェンスでは、財務・税務・法務・人事労務・建設業許可・労災実績・契約関係などが確認されます。事前に書類整理・建設業許可の更新・労災記録の整備・未払金の確認を進めておくと、交渉が円滑に進みやすくなります。
参照出典
- レコフデータ「MARR Online」(M&A情報・データサイト):https://www.marr.jp/(業種別月次集計・年次回顧)
- 日本M&Aセンター「業界別のM&A動向」:https://www.nihon-ma.co.jp/sector/c_construction.php
- 帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」2025年11月21日公表:https://www.tdb.co.jp/report/economic/20251121-successor25y/
- 東京商工リサーチ「2025年『休廃業・解散企業』動向調査」2026年1月公表:https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202284_1527.html
- 国土交通省「建設業法 承継認可」関連資料(2020年改正で導入):https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/totikensangyo_const_tk1_000193.html
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構「事業承継・引継ぎ支援センター」:https://shoukei.smrj.go.jp/
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免責
本記事は2026年4月時点の公表資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の経営判断・事業承継判断・M&A 取引の助言ではありません。M&A スキームの選択、価格評価、税制適用、建設業許可の承継手続きは、個別案件で扱いが異なります。実際の M&A は M&A 仲介会社・公認会計士・税理士・行政書士・弁護士等への相談を踏まえて進めてください。


